産業時代には、生活を豊かにするための製品に消費者のニーズは集中し、住宅・車・生活家電などを生産する企業が市場をリードしてきました。つまり「作り手の理論を優先」したプロダクト・アウトのマーケティングが主流の時代だったと言えるでしょう。

 

 

しかし、生活水準が高まり消費者の趣味・志向は多種多様化している現在では・・

「絶対にコレは売れるっ!」「このビジネスモデルなら成功するだろう。」といった、作り手の思い込みで商品開発を進めれば「開発費用を投資して作ってみたけど売れない・・」「膨大な期間を要して広告動画制作したけど誰にも響かないプロモーションになってしまった。」ということは、実際よくあることです。

プロダクト・アウトからマーケット・インへ

現在では、会社の外に出て街頭アンケートを取る必要もなく、インターネットを活用することで比較的に容易に消費者のデータを得ることができます。そして「作り手の思い込みで商品やサービスを作るのではなく、消費者のニーズをくみ取って商品開発をしなければイノベーションは起こせない」というマーケット・インの発想が重要視されるようになり・・

 

 

この「消費者視点を獲得」することで、今もなお、多くの企業は多種多様なニーズに対応し「消費者の問題を解決する商品やサービス」を次々と作り出しています。

例えば、「ダイエットをしたいという人が多いというデータ」だけに注目すれば、ダイエット食品やダイエットマシーンを作ることを考えるかもしれませんが、「年齢を重ねるごとに代謝が悪くなっているので痩せたい」というニーズに着目すれば、開発するべき商品が変わり、ターゲットに対するアプローチ(広告デザインを含む)も変わります。

さらに「なぜ年齢を重ねても痩せたいのか?」を掘り下げたとき「魅力的なスタイルを維持して異性にモテたい」と「健康診断で中性脂肪とLDLコレステロールの数値が高く不安になっている」など、ターゲットを細かくセグメントすればするほど、さまざまなアイデアが生まれ・・

消費者の抱えている悩みを言語化し、問題を炙り出し、「現状のまま進むと悪化する」といったキャッチコピーで煽ります。

つまり、リサーチを担当する人間が誰であれ、顧客となり得るターゲットのニーズ、悩みを持つ人の心理状態、競合の動向など得られるデータは皆同じでも、リサーチ者の消費者の悩みに対する深い理解と、その精度の高さによってターゲットに強烈に訴求するような宣伝プロモーションを作ることができるわけですね

その結果・・

たいして使うことのないダイエットマシーン、本当にこんなに飲んでも大丈夫なのか?と疑ってしまうような薬の山、不用意にストックされる詰め替え用洗剤など、”実態の無い安心感“を手探りで集めているような状態に陥ってしまう消費者も増えているでしょう。

マーケット・インによって無数の選択肢と問題が生まれた

近所のコンビニやスーパーに行けば、キャッチコピーの言い回しや、パッケージデザインだけが違うように見える、類似の商品・サービスが溢れ、「いったいどれを選べばよいのか?」「これ買って失敗したら嫌だな・・」そんな無数にある選択肢のなかで、消費者は迷い憂いています

あまりにも増えた選択肢は、人々の満足度を低下させ、ときに人を不幸にすることもある

社会心理学者:バリー・シュワルツ

利益を上げ続けることが求められるビジネスの世界では、「作り手の思い込み」ではなく「問題を抱えている消費者への理解」が必要です。そして「消費者を理解する」と言えば、一見すると確かに聞こえは良いかもしれません。

しかし、世の中のすべての人を「消費する人」「問題を抱えている人」と捉え、自社製品やサービスを売り込む相手(ターゲット)として考えるのは、見方を変えれば非人道的だと言えるでしょう

実際に、消費者の心理を理解している(であろう)マーケターが、自分の子供に対して「お前は問題を抱えている、このままじゃロクな大人にならない、だからこの商品を使え!」と、同じことを言うとは思えません。きっと、我が子の中に可能性を見出し愛ある道を示しているはずです。

つまり、世の中に問題を抱えている人がたくさんいるのではなく、問題を掘り下げ、煽り、拡大解釈をさせている”企業やマーケターが市場にあらゆる問題を作り出している”のです

プロダクト・アウトは潜在的なウォンツへのアプローチである

「世界をより良い場所にする」というアイデンティティのある企業は、世の中の人を「消費者」や「問題を抱えている人」として捉えるのではなく、自分の子供に可能性を見るように愛のある道を示し、常識や固定観念に縛られることなく、自身の内側から湧き上がる新しい提案をするでしょう。

代わり映えの無い日常にインパクトをもたらすサービスや、独創的なアイデアを提供することに努力を惜しみません

ソリューションを探すことは外部に頼めるが、ビジョンをつくることは他者に頼めない。ビジョンとは、モノゴトを見るためのレンズであり、世界に意味を与える魂である。

ロベルト・ベルガンティ

つまり、マーケットインは消費者の顕在化されたニーズに応えるためのソリューション(問題解決)であるのに対して、プロダクトアウトは決して「作り手の思い込み」などではなく、まだ表面化(知覚)されていない世の中が求めている潜在的なウォンツに感覚を開き、そこで感じとって描かれたビジョンにアプローチしていくことです

 

 

そして、連続性の範囲を超えた(時間軸を超えた点と点をつなぐ)本当の意味でのイノベーションは、後者のアイデンティティを持った者(企業)によってもたらされているのではないでしょうか

今求められているアイデンティティとは?

アイデンティティとは、直訳すれば「自己同一性」となりますが、なかなか明確に説明することがむずかしいのが「アイデンティティ」という言葉です。それでも「なんとなくわかる気がする」「感覚的には捉えている」そんな人は多いでしょう。

そのため、ここでは理念】【行動】【様相】に同一性があることを「アイデンティティ」と定義します

例えば、SNSで「もっと地球環境を考えてエコに生きるべきだ!」と発言していても、高価な本革のコートを着こなし、全身をブランドバックやブランドシューズで飾っていれば、アイディンティティがあるとは言えません(エコが良くて本革のコートが悪いということではなく、発言と行動が一致しているして否かの問い)。

また、「私は世界にイノベーションを起こすクリエイターです!」と宣言し、独創性のあるファッションをしていても、世の中の制作物に対して批評するだけで、自身が創造活動をしていないのであれば、やはりそこにアイデンティティはありません。

「何をすべきか?」「どう振舞うべきか?」「誰になるべきか?」これらの問いは、現代の生きる者すべてにとっての中心的なものであり、そしてこの問題に対してどのような立場の人であろうと、言葉で、あるいは日々の社会行動を通して、答えを出すのだ。

社会学者:アンソニー・ギデンズ

つまり、アイデンティティとは「自身の心の在り方」と「意思を持った行動」と「他者から映る姿」が統一されて浮かび上がる”輪郭のようなもの”だと言えるでしょう。

企業アイデンティティに必要な3つの要素

コーポレート・アイデンティティ(CI)とは、企業の理念や特徴、独自性などのブランドイメージを社内で共有し、顧客(見込み客・潜在客を含む)に認知を拡大させながら、社員や取引先などのステークホルダーに対しても、共通の理解として浸透させていくブランディング活動のことです。

それは、単純に標語を掲げることではありませんし、響きの良いキャッチコピーを打ち出すことではありません。また表面的にロゴマークをデザインしたり、体裁の良いホームページを持つことでもありません。企業アイデンティティを確立していくためには、理念行動様相を統合して、他者に知覚されるように可視化していくことが必要です

MI(マインド・アイデンティティ)

・MIは、企業の理念やビジョンを明確化することです。しかし、それは経営者ひとりが掲げた標語を社長室に飾ることではなく、その理念、方向性を共有したメンバーを構成することです。

BI(ビヘイビア・アイデンティティ)

・BIは、顧客への態度や振る舞いのことです。消費者のニーズをリサーチして「何を売るか?」を考えることだけではなく、「なぜ提供するのか?」という企業理念のもとに行動に置き換えていくことです。

VI(ビジュアル・アイデンティティ)

・VIは、企業が掲げる抽象的な理念やビジョンを統合して、ロゴマークやシンボルマーク、ホームページや会社概要の冊子などのデザインを通して視覚化することです。

ビジュアル・アイデンティティの重要性

「言語情報(Verbal)=7%」「聴覚情報(Vocal)=38%」「視覚情報(Visual)=55%」と言われる3Vの法則(メラビアンの法則)というものがあり、視覚的な情報は他の感覚よりも多くの影響を与えるために「人は見た目が一番重要だ」と誤解されて解釈されることがあります。

しかし、この3Vの法則は、あくまでも矛盾したメッセージが発せられたときの相手の受けとめ方であり、どれだけ理屈の通った言葉が発せられていても、視覚的な情報がそれに相応しいものでなければ、その視覚情報が優先されて、本来伝えるべきことが伝えられない可能性があるということです

仮に、素晴らしい理念を掲げて、顧客への振る舞いを大切にしている会社でも、ロゴマークが無い、ホームページが心もとないものであれば、思い通りに認知されることはありません。

つまり、会社のロゴマークや冊子、ホームページなどは「体裁的にデザインするもの」ではなく、企業の理念やビジョン、顧客への態度などの非言語の部分を含めた、アイデンティティを知覚させるデザインに起こすことが重要です

こちらの記事では、業界を先導するようなWEB制作会社やクリエイティブスタジオ、ブランディング戦略に携わるマーケティング会社、次のトレンドを作り出すファッションブランドなど、アイデンティティが感じられる企業のWEBサイトを紹介しているので、VIの参考にしてください↓

情報が溢れ、物質が溢れ、同じような製品やサービスで溢れ、選択肢が増え続ける今、世の中から求められているのは、無数の選択肢を打ち消す本物のサービスです。使命や理念、独自性や熱意を持ったアイデンティティのある企業です。

そのためTCDでは、あなたの会社の理念、振る舞いを視覚的に投影することができる、企業アイデンティティを確立するためのWordPressテーマ「VOGUE」を作り上げました。「流行」を意味する「VOGUE」は、既存の流れに乗るだけではなく、新しい流れを作り出すWEBサイトの新しい形を提案します。

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